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桜の文化

 
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登録日: 2008.01.20
記事: 2492

記事日時: Thu Mar 30, 2023 6:23 pm    記事の件名: 桜の文化 引用付きで返信

 春は桜の花で人の心が浮き立つ。平安時代の在原業平は「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」と詠んでいる。(『古今和歌集』)

 現在、私達が愛(め)でている桜は、多様な栽培品種である。それらは日本の野生の桜からつくりだされたものだ。日本の野生の桜として、ヤマザクラや山地性で大木になるエドヒガン、桜餅の葉に使われるオオシマザクラ、2018年に発見されたクマノザクラ等わずか11種が分類学的に認識されている。この歌にあるのはヤマザクラであろう。

 桜の野生種は変異し、さらに野生種間の交雑もする。変異した植物は、自然状態では通常消えて行くが、桜の場合、そのなかから人の観賞用に好まれるものが選ばれ、挿し木や接ぎ木によって増やされてきた生きた文化財とも言えよう。京都の円山公園や平安神宮の枝垂桜(しだれざくら)は、元来、京都には野生がないエドヒガンの栽培品種だ。エドヒガンは巨大木になり岐阜県根尾谷の淡墨桜、福島県の三春滝桜という固有名詞の名前がついている木が有名だ。染井吉野(そめいよしの)はエドヒガンとオオシマザクラの交雑により江戸時代末期に出現し、接ぎ木により大量に全国(北海道や沖縄を除く)に植えられていった。

 ヤマザクラの本来の野生の姿は京都周辺では、西京区の松尾大社の背後の常緑林や比叡山のモミ林のなかに点在している。人が森林を伐採するにつれて、ヤマザクラは分布域を広げていった。嵐山や吉野山ではさらに人が手を加えて植樹して桜の名所をつくってきた。ヤマザクラの美しさは白い花と赤みがかった若葉が同時に出る風情であろう。

 オオシマザクラは伊豆諸島原産、変異が多様で、色も白から淡紅色、形も一重から八重まである。またヤマザクラやエドヒガン等と交雑して多くの栽培品種を作りだしていることが、遺伝子解析により明らかになってきた。特に江戸時代初期から江戸では武家屋敷に、京都では寺や神社に多様な品種を集めて植えられた。手入れができる経済的余裕があり、広い庭などが必要であるからだ。

 オオシマザクラとヤマザクラの交雑が繰り返され、御所の左近桜、また遅咲きの桜として知られる仁和寺の御室有明(おむろありあけ)、また平野神社の社殿の周囲には妹背(いもせ)などが植えられ大切に護(まも)られてきた。私は仁和寺の桜の早朝の花の香りと華やかさに最も京都らしい花を感じる。東中稜代氏の句がある。「花疲れされど御室を訪ふまでは」。

 日本の桜の花文化の現在に至る継承には、佐野藤右衛門家の貢献が大きい。最後に、私の最も好きな桜は、左京区の鷺森神社の参道の桜の巨木だ(京都市指定保存樹)。1本だけだが、樹形は豪壮で花に芳香があり、類似の桜を見たことがない。この花を見に来た日本の桜研究の第一人者勝木俊雄氏はヤマザクラとオオシマザクラの交雑と推定する。近年やや衰え気味であり、コンクリート舗装された根元の環境の回復が必要だ。苗を作って系統保存したい。

 江戸時代には園芸品種をつくりだす熱意が最も盛んであり、現在、私達はその恩恵を受けている。これからも花を愛でる文化の継承が望まれる。
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